東京地方裁判所 昭和39年(ヨ)2114号 判決
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〔判決要旨〕一、就業規則の作成や周知方法に関する労働基準法第八九条、第九〇条、第一〇六条等の規定は就業規則の有効要件を定めたものではなく、行政上の取締規定にすぎないものと解するのが相当であるから、同法第九〇条所定の届出をしていないからといつて、直ちに上記規則を無効ということはできない。
二、懲戒解雇を撤回して普通解雇としてされたにしても、懲戒事由該当を理由に終局的に企業から排除する懲戒処分としての実質を有するから、その行為が軽微であり、他に解雇を相当とする格別の理由も認められないときは、解雇権の乱用として無効というべきである。
〔判決理由〕会社は本件解雇の理由として申請人の行為が従業員規則(就業規則)に定める懲戒事由に該当すると主張し、申請人は右規則の効力を争うので、まずその点について検討する。
いずれも<疎明―省略>によれば、右規則は、昭和三六年四月頃会社が全従業員の意見を聴いたうえ作成したもので、当時その全文を事務室、指導員控室等に備え付けてあつたが、昭和三八年一一月二〇日頃これら備付書類が紛失してしまつているのに気付き、あらためてその全文を従業員に印刷配布したことが認められる。右認定によれば、会社は従業員規則を制定の上当時これを従業員の了知できる状態においたことが明らかであるから、それによつて右規則は就業規則としての効力を生じ、その後これを廃止変更したと認むべき事情の疎明はないので、本件解雇当時まで有効に存続していたものと認められる。右解雇時まで会社が所轄行政官庁に右規則の届出をしていなかつた事実は当事者間に争いがないけれども、就業規則の作成や周知方法に関する労働基準法第八九条、第九〇条、第一〇六条等の規定は就業規則の有効要件を定めたものではなく、行政上の取締規定にすぎないものと解するのが相当であるから、同法第九〇条所定の届出をしていないからといつて、直ちに上記規則を無効ということはできない。この点に関する申請人の主張は失当である。<中略>
四、本件解雇の効力
ところで、本件解雇の意思表示は懲戒解雇ではなく、これを撤回し改めて普通解雇としてなされたものであることは争いがないところ、退職事由を規定した従業員規則第四一条によれば、一ないし四号として停年、休職期間満了、任意退職、懲戒解雇を列挙するほか、五号として「天災地変、事業不振、其の他止むを得ない事情により解雇した場合」が掲げられているけれども、同号による解雇は、懲戒解雇とは別個に規定されていること及びその例示する解雇事由等から考えて、従業員の責に帰すべき懲戒事由を理由とする場合を含まないものと解するのが相当であるから、右規定をもつて本件解雇の根拠とすることは許されない。
もつとも、右規則に定める退職事由の列挙が必らずしも限定的性質のものではなく、別途の理由による普通解雇は許されると解する余地もないではないが、本件解雇は申請人の行為の懲戒事由該当を理由になされたものであつて、懲戒解雇とは多少その効果が異なるにせよ、ひとしく申請人を終局的に企業から排除する懲戒処分としての実質を有するものであることは、会社の主張自体に徴して明白である。一般に使用者が懲戒処分の種類、段階、要件等を就業規則に規定した以上、その趣旨を没却しみだりに普通解雇の形式によつてそれらの規定を潜脱することが許されないのは当然の事理と解されるところ、申請人の行為が前認定の程度の軽微なものであつて、他に解雇を相当とする格別の理由も認められないのであるから、本件解雇は他の争点につき判断するまでもなく、解雇権の乱用として無効というべきである。(橘喬 吉田良正 高山晨)